2008/04/11 地下室

 降りしきる粉雪を小窓からながめていたら、次第に画面がフェードして、一面に舞い散る花吹雪に切り替わっていた――今時、こんな古めかしい手法で時間経過を表現したら、ひどく叩かれることになるだろう。

 私事であるが、先日引越しをした。実は私たち、4月から札幌市内でオフィス(のようなもの)に入居することが正式に決まったのだが、そんなこんなで、東京での家賃を少しでも抑えたいというのが理由の一つだった。
 
 「敷金・礼金は特別に0円にまけますから。今時ないですよ、東京でこんな物件」。不動産屋が身振り手振り、猛プッシュするこの部屋、確かに条件は悪くない。
 「いやねえ、ここの家主さんとは仲良しなんですよ。今日決めてくれるんなら、私、あなたのために交渉しますよ」。力説する店長の目は、南氷洋のクジラのように泳いでいる。嘘つきの目である。裏がある。私とてそれほどうぶではない。
 しかし、しかし――礼敷ゼロというエサに心が揺れる。実際、初期費用の高さから、引越しをあきらめかけていたところだった。家賃を抑えるということは、すなわち占有面積が小さくなるということである。手狭になったので、広いところに移るのではなく、手狭であるにもかかわらず、さらに狭いところに移る。どだい無茶な話だ。しかし、この条件ならば異常に増えてしまった蔵書をぎりぎり収容できそうではないか。なあに、多少の不都合があっても――というわけで、あっさりとルビコン川を渡ったのである。

 暗い。思っていた以上に真っ暗である。目の前に立ちはだかるマンション、下見の時も気にはなっていたが、それでも南向きだし、日の差す時間もあるだろうと高をくくっていたのだが、いざ住んでみると、一日中夜である。       
 不動産屋の言葉を思い出してみる。確かに南向きということはしきりにアピールしていたが、「日当たり良好」とは一言も言っていない。頓知の世界である。
 昼間、部屋に戻ると滅入る。地下室に潜るような気分である。
 なあに、どうせ日中、部屋にいることなんてないんだし、休日の朝寝坊にはもってこいじゃないか。なんたって、礼敷ゼロだったことを思えば、これしきのこと……。

 やられた。うかつなことに、引越し後、しばらく気が付かなかったが、携帯が圏外になってしまうようなのである。ビルの谷間ということなのだろう。これが隠し球だったのか……。
 もともと、携帯電話はあまり使うほうではない。映画館やら名曲喫茶やらで時間を過ごすことが多いので、電源を切っていることもしばしばなのだが、そのうえ、部屋にいる時まで圏外では……。
 私に何か用事があって電話をしてきた人は、「あの野郎、電源ずっと切りっぱなしじゃねえか!何様だ!」ということになってしまう。ただですら薄い人望、さらに評価が最近の株価のように下落する……。

 
 というわけで、関係各位の皆様、携帯の電源がオフになっていても、メッセージを残して下さいね。コンビニに買い物に行く時にでも、きっと気が付きますから。
 以上、遅くなりましたが、引越しのご挨拶でございました。